7Key Technology 7つのキーテクノロジー

Key technology 04
オプトリピドミクスと食由来栄養

局在する腸内細菌叢と代謝の機序解明に挑む

京都大学 大学院生命科学研究科
生体システム学分野 教授
東京農工大学 大学院農学研究院
代謝機能制御学研究室 特任教授
木村 郁夫 教授

2001年京都大学薬学部薬学科卒業。2006年同大学院薬学研究科生命薬科学専攻博士課程 修了(薬学博士)。その後は京都大学大学院薬学研究科薬理ゲノミクス分野客員准教授などを経て、2013年に東京農工大学大学院テニュアトラック推進機構代謝機能制御学研究室特任准教授、2019年から同グローバルイノベーション研究院代謝機能制御学研究室教授となり、現在は京都大学大学院生命科学研究科教授と東京農工大学大学院農学研究院特任教授を兼務する。

生物は食べ物から必要な栄養素を得て生命を維持しています。
胃や小腸では主に栄養素を吸収し、大腸では難消化性物質を分解・吸収してさまざまな代謝物を産生しますが、実は腸内でも部位によって違いがあり、それぞれの部位で存在する腸内細菌叢が異なることが分かってきました。
その詳しいメカニズムの解明に挑みます。

Key Words

  • 腸内細菌
  • 代謝
  • 脂肪酸
  • 脂質
  • オプトリピドミクス
  • 受容体

既存の解析技術では見られなかった世界を覗く

人間は食べた物を胃や腸で消化し、そこから栄養素や水を吸収して生命を維持しています。
体内の働きとして見れば、食品を構成する物質を酵素や腸内細菌の作用で分解し、最終的には脂肪酸や糖などの代謝物質へと変化させているということ。
最終的にどのような物質が産生されるのか、代謝物質の検出には質量分析計を用いたメタボローム解析などの技術が使われてきました。
これら解析技術は血液や組織内の物質を定量的にも分析することが可能で、マイクロバイオーム解析と組み合わせた腸内細菌と関連研究の発展に大いに貢献しています。

しかし、腸内の環境は一律ではなく、たとえば大腸では胃や小腸で消化されなかった食物繊維を短鎖脂肪酸に分解しますが、大腸の上部と下部では環境も異なることから、正確には、どの部位がどのような機能を果たしているのか、そこにはどのような腸内細菌がいて、どのような物質から、どのような代謝物が産生されているのか、既存の解析法だけでは明らかにすることができません。

腸内にはこれら腸内細菌由来の代謝産物である酢酸・プロピオン酸・酪酸のような短鎖脂肪酸を認識する生体受容体が存在します。
これまでの我々の研究から、短鎖脂肪酸はエネルギー源としてだけでなく、シグナル伝達物質としても働いていることがわかっています。
つまり、人間は食べ物を食べ、腸内細菌の作用で産生された短鎖脂肪酸を受容体を介して受け取ることで、さまざまな生理機能が働くと考えられます。
受容体に着目して研究すれば、どのような食べ物を摂取したときに受容体群が活性化するのかがわかるので、生活習慣病の新たな創薬標的分子や機能性食品素材の探索につなげたいと思っています。

母親腸内細菌由来短鎖脂肪酸は胎児に移行し、その受容体を介して、神経細胞、GLP-1発現腸内分泌細胞、および膵臓β細胞の分化を促進することによって、出生後の代謝機能を整える

食品の機能や機能性食品の個性を明らかにしたい

食由来の短鎖脂肪酸が生体内のどこに多く存在するのか、脂肪酸の局在化を明らかにするとともに、食べたものとの関係性を解明できれば、食品中の成分が生体にどのような作用を及ぼしているのか、機能解明につながります。

今回のプロジェクトではコヒーレントラマン顕微鏡を使用し、臓器内での栄養代謝のメカニズムを解明することを目指します。
キーテクノロジーである「オプトリピドミクス」とは光を使って脂肪酸などの脂質を網羅的に検出する技術のこと。
コヒーレントラマン顕微鏡は非破壊で観察・分析できることが特徴で、さまざまな部位の組織を切片化して観察することで、組織内の脂肪酸の局在化を明らかにすることが期待されます。

たとえば、食物繊維にはペクチンやマンナン、アルギン酸など、いろいろな種類がありますが、それぞれの機能面での特徴は明らかになっていません。
また、腸内細菌にもさまざま種類があります。
腸内細菌叢のバランスをとるために有効とされるプレバイオティクス(食物繊維・難消化性オリゴ糖)やプロバイオティクスなどはいろいろな商品に応用されていますが、これらも個々の成分の特徴は十分解明されていません。

だからこそ、食品メーカーは自社で扱っている成分・物質に個性を持たせたいと考えています。
コヒーレントラマン顕微鏡を使った解析技術が確立されれば、特定の食物繊維が大腸のどの部分で腸内細菌による発酵を受け、それによって生体のどのような生理機能と関係しているのかを明らかにできます。
本学としては食品メーカーの依頼を受けてそれぞれの機能を解析することになると思いますが、企業側はその研究結果をもとに自社製品の独自機能を謳うことができるようになるでしょう。

近年の研究では腸内細菌叢の変化は宿主である人間の代謝機能に密接に影響し、肥満や代謝性疾患の発症に関わることが示されました。
代謝機能の重要性は古くから指摘されていますが、そもそも食品には多種多様な成分が含まれていますし、生体内でさまざまな物質に変化するため、解析する技術がありませんでした。
ここ最近の質量分析技術の発展に伴って、網羅的に代謝物を検出できるようになってきたのです。

今回のプロジェクトでは脂肪酸の網羅的な検出だけでなく、代謝物の可視化も可能になると期待されます。
私たちは食べ物の機能性をエビデンスとして証明することで、一般の方々の食品選びに貢献できると思っています。
受容体の研究というと難しく聞こえるかもしれませんが、研究の成果を身近に感じてもらえたら幸いです。

腸内細菌がいない無菌母マウスから産まれた仔(左)は成長して重度肥満になり、高血圧、高脂血症などのメタボリック症候群の症状を示した

腸内細菌にとっての腸内環境を可視化

東京農工大学 大学院農学研究院 応用生命化学専攻
宮本 潤基 テニュアトラック准教授

大腸という1つの臓器を見てみても上部と下部では大きく機能も環境も異なります。
それぞれの場所に適応できるように生存した結果がいまの腸内細菌叢の状態です。

胃などである程度消化された食べ物は、小腸でさらに消化酵素によって処理されて糖や脂肪酸になって身体に吸収されます。
非常に栄養素がリッチで、生命維持に必要なモノを効率的に吸収できる環境だと言えます。

一方、小腸で吸収されなかったものが到達する大腸は、栄養素の吸収よりも、水やミネラルを吸収する機能に特化しています。
ただし、それらはあくまでも人間にとっての視点であり、特定の腸内細菌にとっては大腸のほうが豊かな環境であるかもしれません。

このプロジェクトでは、そのような腸内細菌のための腸内環境を可視化する研究を進めていきたいと考えています。
そのためには、より一層感度を高める、ターゲット物質の濃度を上げるなど、技術改良の余地があります。
併せて、食べ物(物質)の性質をもっと理解する必要もあるでしょう。
さまざまな可能性を多面的に考察しながら研究を進めていきたいと考えています。

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各社独自の食物繊維の特徴を解明することで、
さらなる質向上に貢献
本研究を通して、生体内ではどのような食物繊維が、どのような代謝を受け、どの臓器のどのあたりで、どのように働いているかが明らかになると期待されます。
これまで食物繊維は大きな枠組みでくくられていましたが、企業各社が持つ素材に対して機能性の証明やより個性を打ち出すための技術開発などにつなげることができます。
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