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KT52023.02.01

【OPERA 研究者インタビュー】農工大のミライへつながる研究室を目指して

OPERAに関わってくださる教員の中から、
農学府 准教授の 小松 健 先生にお話を伺いました。

 

― 農工大に来られるまでの経歴を教えてください。

もともと札幌で生まれ、高校まで過ごしました。一人暮らしがしたくて、東京の国立大学だったら一人暮らしさせてくれるかなと、東京大学に入学しました。農学部に行って、農学部で今の研究分野に出会って、そのまま同じ研究室に13年くらいいて…。ですから、よく他人に自己紹介するときに、「箱入り息子」なんて言っています(笑)。
札幌にいると北大に行けばいいという風潮があって、実際に私の高校も、進学校ということもありましたが、400人いたら200人は北大に行くんです。それだとずっと大学まで同じところから通わなくちゃいけないし、それはちょっと嫌だなあって思っていました。   幸いにも勉強が好きで、それなりにできたのでというのもありまして、東大へ進学したのですが、農学部だったら地元北大でもよかったじゃないか、なんて言われました。
東京と札幌ぐらい離れてしまうと戻りにくいですね。親にはあまり帰らないのは悪いかなと思いながらも東京で生活しています。
農工大生は意外とみんな東京近辺出身が多くて、東京で通えるところという理由で選んでいる人も多いですが、大学入学というのは環境を変えるチャンスでもありますよね。

 

- 先生はアカデミアの世界に来られていますけれども、子どもの頃から目指されていたのですか。

きっと東京に出てこなかったらあまりそう考えなかったかもしれません。札幌も確かに大きな都市ですけども、周りに、身近に大学の先生ってあまりいないんです。私は、大学の先生というのが仕事として成り立っているというのが分かったのは大学に来てからなんです。研究者というのもイメージが湧かなかった。

 

― 研究者になろうと思われた理由やきっかけはありますか。

研究室に入るまではまったく考えなかったです。周りには研究者になりたいと言っていた友人も結構いたのですが、私自身、正直そんなに向いているとも思っていなかったんです。勉強は好きだけど、そんなに目指したいものなのかなぁみたいな感覚がありました。
ドクターに入ってからは、大学の研究者になれるといいなぁ、なんとかなりたいな、と思いましたが、それまではどちらかっていうと、あんまり将来のことは考えずに進んでいったという感じです。
私たちの年代はちょうど大学院重点化の時代で、大量にドクターが増えて、大量に研究者が増えて、みたいな時代でしたので、その流れに乗っていたということもあるのかなと思うのですが。

 

― 現在の研究分野について教えてください。

植物病理学ですね。私自身の研究としては、植物の病気の中でもウイルスをやっています。学生のときに、最初にテーマを与えられたときからずっとメインでやっています。病気を治す、良くするためという目的はもちろんありますが、基本的にはなぜ悪い病原体が増えるのかとか、なぜ新しい病気が出るのかといった、基礎的なことが非常におもしろいなと思ってやっています。ただ、植物病理の研究室ってそれこそどんな大学の農学部にも必ずあるんですけども、例えば地方とかに行くと、やっぱりその地方の問題に応じた研究を求められる。基礎的なことをやるのは非常に大事なんですが、この研究分野は、大学の先生というものに対して、他分野の学会などと少し異なっていて、学会などにいる‘現場’の人たちの厳しい目がある印象です。ポスドクの時に、取り組んでいる基礎研究の発表をしたとき、やり手の現場の方に「難しいことをやっているんですね」とチクっとやられたことがあり、これは衝撃でしたね。そういうこともあり、農工大に来てからは特に、そういう現場に近い人たちにいかにわかりやすく伝えるのか、フックのあることをするにはどういう方向性がいいか、といったことも意識して研究を進めています。
学生指導をしていても、農工大生、特に農学部生には、基礎的なところより何か現場に役に立つことをしたいというマインドを感じています。
私自身も農工大の9年間で現場を意識するようになって、研究者として結果として幅を広げることになりました。現場に即することの大切さを学んだところから、だんだん幅は広がってきましたし、そのおかげで学生指導の際にも、こういうこと言ったら現場に即した応用的な研究でなくても、あまり馴染みのない基礎研究でも学生は納得できるんだな、とかいうのが少し分かってきた気がしています。

 

― 先生のキャリア形成で困ったことや今の学生さんに伝えられることはありますか。

結局周り、特に家族になりますが、を納得させられるかっていうところが困ったかもしれないですね。だいたい今は学生の就職もだいたいは親の納得っていうところが大きい時代ですよね。就職先なんかでも、親が知らない会社だったらそれを説明して納得させないといけないですから。ですので、キャリア形成の問題のうち半分くらいは周りの人に納得してもらえるかどうかっていうことが大きいと思います。若いうちにいろいろな人の話を聞くことができれば、こういうふうに納得させる手があるんだなとか、こう掘り下げればいいんだなっていうのは分かるのですが、現実はなかなか難しいですよね。
しかも実は、偶然で行くところがキャリアとしては大きい。若者はそうじゃないと思っているかもしれないですが、やっぱ偶然が大きいと思っています。その偶然をうまく活かしてみんな生きているわけで、あらかじめコスパ良い方向性を考えて進めるのは難しいんじゃないでしょうか。この考えからいくと、そもそも偶然じゃなくてちゃんと考えようという今どきの“キャリア形成”からはちょっとずれてしまいますが(笑)。
でも、こういう考え方もあるよ、そういう世界感もあるよということを伝えるのもいいのかなって思います。

 

― これからの夢や目標はありますか。

今、ちょっと私が思っているのは、外国からの留学生が増えていることもあって、研究室をそれに合わせた形にできないかなということです。実際、日本人のそもそもの人数も減っている、つまり農工大に来る優秀な学生の数も減っていくのは必然ですよね。今はまだ、日本の博士号というものに価値があると見て留学生が日本に来てくれるわけですが、それもいつまで続くか分からないですよね。もっと日本の経済的な価値が落ちたら、日本を選ばずに別の国へ、ってなるかもしれないわけです。ですから、そうなる前に、海外から人を呼べるような、農工大に行こうって思えるような分野の研究者になっていきたいなというのがあります。それに応じて、日本人の農工大生にフィットさせたラボではなくて、留学生に向け全部英語で最初から入ってきても問題ないラボにしたいです。例えば、留学生が来たときに、例えばパソコンを見て、自分でできないことがあったら日本人に聞くのではなくて自己完結できるとか、英語でのディスカッションがある程度できるようにするとか。
今後間違いなく日本人が減っていく中で、大学自体も統廃合なども起こって競争が激しくなっていくかもしれません。そのような中でも、日本の農工大だったら、日本で博士号を取るに値するっていう人材を呼べるようなラボにしたいです。そのためには、例えば今いる留学生とかにどんどん積極的に活躍してもらって、そういう人たちが苦労せずに研究に邁進できるレベルにしていくことが肝要だと思っています。それはおそらく教員にも学生にも痛みが伴うことです。日本人の学生は少しやりづらくなるかもしれないと思いますが、逆に考えると、ホモな環境でなあなあで進めていける組織でなく、多様性を知って世界の人と交われる組織で学ぶ経験はこれからより必要とされるはずです。
植物病理というのはある程度どこの国でもある学問ですからこのように思うのかもしれませんが、そこを目指さないと駄目だなというか、私に与えられたチャレンジとしてはちょうどいいのかなと思っています。

 

― オンとオフ、どう切り替えていますか。

オフというものが本当にないですね。時間がもったいないんですよ、わざわざオンオフを作るのが。だって家族がいる限りは、家では絶対にオフにしなくちゃいけない時間があるじゃないですか。その時間はもう家のことを一生懸命やるし、それはそれでオフなんでいいんですけど、それ以外の趣味とかに割く時間っていうのは、私の年代、特に団塊ジュニアの年代の方はそんなにはないはずなんですよ。例えば、完全にやるのは難しいにせよ、子どものことも家族のことも夫婦で差がなく互いにちゃんとやるべきだっていう考えが若い年代だと当たり前になってきているじゃないですか。そうなるとやっぱりオフってなんだろうって思いますよね。家庭のことを一生懸命やる、家庭で楽しむっていうのがオフになりますかね。特に子どもがいると、子どもとの楽しい期間なんて限られていますから、やっぱりそこに一番時間を使うべきかなっていう気はします。

 

― これから先生ご自身がやりたいことは。

毎年1個ずつくらい、研究で自分でやってなかった新しいことを考えてやっていきたいです。引き出しを毎年広げたい。本当の意味での自信と引き出しをいっぱい持って、でも、しっかり学生に時間を使ってきたいと思っています。

 

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<OPERA事務局より>

先生の明るいお人柄もあり、終始楽しいインタビューでした。先生ご自身は「“にぎやかし”なら得意ですよ」と謙遜されていましたが、今後の農工大発展のための明確なビジョンなどもお話しいただき、大変参考になりました。先生の夢や目標が叶う時、それは農工大が更なる発展を遂げることを意味すると強く感じました。

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