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KT12023.02.07

【OPERA 研究者インタビュー】あえて困難な研究へ挑みミライへつなげる

OPERAに関わってくださる教員の中から、若手研究者をクローズアップ。
グローバルイノベーション研究院 助教 として活躍する
福谷 洋介先生にお話を伺いました。

 

 

― 農工大に来られるまでの経歴を教えてください。

大学院博士課程まで農工大でお世話になりました。バイオテクノロジーに興味があり、実家も都内にあることから都内の大学で調べて選び入学しました。博士課程修了後は一度民間企業で研究員をしていましたが、農工大で教員ポストの公募があることを知り、採用していただきました。企業に所属していた際は、情報収集として比較的自由に学会などにも参加させてもらっていたのですが、学生の時には関わらなかった分野も含めて、発表を見たときに、もう少しきちんと(基礎)研究をやりたいなという思いがありました。企業だから当たり前なのですが、利益を得る研究が優先されるということに、少しもやもやしたものを感じていたこと、視野が広がったことで学生当時にこういうことを試せたらいいなという発想が出てくることが多くなり、もう一度研究をしっかりやりたいと強く思うようになりました。それがアカデミアへ戻るきっかけになったかもしれません。期間は短かったですが、企業での経験も、共同研究を進めるときにとても活きていると思っています。

 

― 子供の頃になりたかった職業はありますか?

  特定の職業へのあこがれは特になかったのですが、モノづくりには興味がありました。でも、何かを作る人にはなりたい、くらいな感じです。どちらかというと高校の途中ぐらいまでは、物理とか機械とかのほうが興味あったのですが、とあるきっかけで生物への関心が高くなりました。関心が高くなると成績も良くなって、特に「遺伝」が好きになりました。それが、今の研究にもつながっているかもしれませんね。

 

― 現在の研究内容について教えてください。

嗅覚受容体という、におい分子を感じるタンパク質の研究を学生時代からずっと行っています。においは、人それぞれで感じ方が違ってしまうので、もちろん濃度とかで定義はできるんですが、官能評価が主流です。ただ、官能評価でもよく分からないこともあるので、動物の嗅覚の原理を模倣した形でにおいの評価方法の開発し、動物が感じている嗅覚、味覚の再現ができればと思っています。それに向けて例えば高感度に感じているにおいが反応する受容体見つけるとか、その受容体がどのようにそのにおい分子にくっついているかなど、そういう細かいところを基礎研究の面で実施しています。香料などのにおいは官能評価で計測できるものですが、官能評価になると検体数に限度があったり、ばらつきがおきます。自身の研究でにおいの定量的な評価と官能評価の代わりに処理できる検体数を増やすことができれば、新しい香料開発などにも活かすことができると思っています。また、臭いにおいや毒劇物に指定されている薬品のにおいは人体実験が倫理面や健康面からしにくいですが、それをヒトなしでの実験や、動物の反応を可視化することができるようになると、においに対する反応をわかりやすくすることが可能になります。

 

- “におい” に注目されたのはなぜですか。また、研究で変えていきたいことは。

指導教員から研究テーマを選ぶ際にタンパク質の研究でにおいの研究は一番難しいテーマがこれだと言われました。一番難しいならあえて挑んでみようと研究テーマとして選びました。実際に難しいですが、難しいからこそ楽しいと思うこともあり継続できています。においの感じ方を何らかの形で可視化できると、色々な面でよくなることがあると思っています。例えば、食すのには問題ないような食品でも、その中の一部の香りだけが落ちてしまうことで廃棄期限が短くなっている場合があります。SDGsの観点からもにおいの問題を解決できれば食品ロスを減らすことにつながると考えています。また、医療や介護の現場などでは生活臭の改善が求められています。研究が進むことによって、においがネックになるようなこと全般を変えていければよいと思います。

 

 - キャリア形成で困ったことはこれまでありますか。

人にあまり影響を受けないタイプだと思っていて、何事も自分でやってみないとわからないと思っています。インターネットで調べて出てくる情報もその人が好きなように言っているだけかもしれないと思うタイプですので。
学生に進路の相談を受けることもありますが、そういう時は、その場に自分で飛び込んでみないとわからないことばかりなので、まずは自分の気持ちを大事にするといいとアドバイスしています。学部生の研究室配属も同じようなことを研究紹介に加えて話すようにしています。

 

― これからの夢や目標はありますか。

意外と夢と目標、これになりたいとか、もともとあんまりないんですね。強いて言えば、自分が楽しいこと、好きなことをできるだけやっていくことを大事にしています。(もちろんそれだけではいきませんが)。学生指導でも、自分の研究の姿勢で学生さんに楽しさを伝えられるとよいと思っています。他の人がしないこと、できないようなことをしていき、自分の独自の分野を築ければと思っています。他の方が専門に行っている研究や分析はその人にお任せし、共同研究などでお互いにWin-Winになればという感じで思っています。このような考え方になるのは、おそらく子供の時から好きなように好きなことをやらせてもらってきたことが大きいと思っています。

 

― オンとオフ、どう切り替えていますか。

家に帰るというか、子供の保育園の送迎がオンオフの切り替えになっています。強制的にシャットダウンという感じです。自分の父親は職業柄、休日に家で仕事はしなかったので、自分も極力そうありたいと思っています。ただ、仕事柄、家で家事をするとにおいを感じることは度々あるので、その時は味覚とか嗅覚とかちょっと考えてしまい、無意識にオンになっています…(苦笑)。このにおいは、あのにおいだ、みたいな、あの分子だ、みたいなのは、考えているときは、ちょっとオンに一瞬切り替わったりはしますね。

 

― 福谷先生が感じられる農工大の良いところや問題と思うところは。

良い点は環境がよく、良い意味で学生はマイペース、がつがつしていない、とがってないと感じています。加えて面倒見のよい先生方も多いと感じています。農工大の先生方の研究は有名大学のそれと遜色ないレベルで、学生さんもレベルが高いと思います。受験するときに農工大がどんな研究をしているか、しっかり調べて目標をもって受験してくる学生さんが多いのではないかと思います。農工大が有名大学になりすぎると、この雰囲気が変わってしまうかもしれませんね。問題かなと思うのは、助教レベルの教員の層が薄く、交流がなかなかないことでしょうか。農学部の先生のことも、実はあまり存じ上げないので、視野を広げるためにもこのOPERAを利用して先生方の交流は多く持ちたいと思っています。

 

― 今後OPERAでやりたいことは何ですか。

一つ目は、におい分子の動きを顕微鏡で可視化できればと思います。受容体がにおいを感じてからそのにおいがどうなるのか、わかるとよいと思っています。においが細胞内に入るのかとか、一度くっついた受容体と離れて別の受容体とくっつくのかとかなどを観察ができればと思っています。もう一つは、他の研究分野との新しいコラボレーション。現在2者間で行っている研究を3者4者と増やして発展できると非常によいと思っています。

 

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<OPERA事務局より>

 研究者になりたいと強く願ってこの道に進んだというより、自分が自然に選んできた道の延長に今がある、と穏やかに話された福谷先生。その印象だけではわからない、あえて人とは違う難しいテーマを自身に課す、チャレンジングな一面とのギャップもお話から伺えました。企業での研究経験もある福谷先生。貴重な存在として、農工大の教育・研究の発展に力を発揮してくださる先生のお一人だと感じました。

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