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KT12022.07.25

【OPERA研究者インタビュー】漫画やアニメ世界の技術を体現!?―命をつなぐ研究を武器に進む求道者

OPERAに関わってくださる教員の中から、若手研究者の方々をクローズアップ。
今回は、工学研究院准教授(テニュアトラック)の吉野大輔先生にお話を伺いました。

 

 

― 農工大に来られるまでの経歴を教えてください。

学位を取ったのは2011年の3月に東北大学でした。その後富士フイルム株式会社に就職しましたが、少し思うところありまして、東北大学医工学研究科大学院に博士研究員で戻りました。2012年の4月に、東北大学流体科学研究所の助教に異動になって、そこから2017年の1月まで片平キャンパスの流体科学研究所に、同年2月からは同じ東北大学の青葉山キャンパスにある学際科学フロンティア研究所に在籍していました。
農工大には、2019年11月に着任し、研究室を主宰する立場になりました。

 

― 子供の頃になりたかった職業はありましたか。

これはね、なかなか笑えますよ。(笑)

本当に、いろいろありました。幼稚園の時は、パイロットになりたかったんです。あんまり言うと敬遠されるんですけど、パイロットの中でも、戦闘機とかのパイロットになりたくて。アニメとかで出てくる、格好いい戦闘機に乗りたかったんです。
次に、小学校に入った時には、ゲームクリエーター。僕の時代って、ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーがもう全盛期で。ストーリーというか、RPGゲームのクリエーターになりたかったんです。その後、中学生になったころから、研究者がいいなって思い始めたんです。漠然とではありますが、真理を知ることで悟りを開けるんじゃないかというふうに思ったんです。でも、結局、戦闘機のパイロットが諦めきれずに、少しでも近い分野のことをやりたくて大学には機械系に入りました。そこで、最初はロケット工学、特にエンジン関係の研究をやりたいと考えていました。当時は3年生前期から研究室配属だったのですが、その配属の時に、自動車のトランスミッションの設計・開発や歯車の疲労強度向上などを研究している研究室に入りました。でも、そこで提案されたテーマが医療機器の設計だったんです。

 

― 大学進学時の夢と大学での研究テーマで、かなり違うように思うのですが、どうしてその道を選ばれたのですか?

大学進学時も、成績が向上するか不安なため絶対に浪人したくなかったので、決まったところに行こうと考え、獣医学部や商学部、その他の学部を含めていろいろ受験して、結局、AO入試で受かった東北大学工学部に進みました。受かったところが僕の進む道だという考えでいました。
僕は早期卒業制度を利用して3年で大学を出てるんですが、研究室配属時に既に4年生の先輩たちが研究テーマについて決めた後でした。そこで、研究室の先生からは「もう君に残っているのは、超長寿命の歯車の疲労強度に関する研究か医療機器の設計のどちらかだよ」と言われました(笑)。
超長寿命の歯車の疲労試験は、1年に1個しかデータ出ないかもしれないという話でしたので、それならば医療機器の設計をやろうと決めました。僕が高校生の時に、祖父が循環器系の疾患で倒れ、亡くなったことも少なからず影響がありました。

 

― 現在の研究テーマについて教えてください。

OPERAではステントをテーマに研究を進めていますが、研究室としてはそれ以外にもいろいろ取り組んでいます。今、メインでやっているテーマの1つは、プラズマです。室温程度のプラズマを使ってタンパク質などの生体分子の構造や機能に手を加えるという研究をやっています。
プラズマって小さな雷なのですが、少し工夫をして特殊な放電状態にすることで室温程度のプラズマを実験室で作ることができます。それを液体中の生体分子に当てることができるのは、恐らく世界でも自分の研究室ぐらいしかないと思っています。液体中にある分子に当てるというのはなかなか難しく、しかも、すごい弱く当てる。雷のズドンっていう強い感じじゃなくて、弱い感じで当てられるという技術が、自分の研究室の売りなんです。その技術でどういうことが起こるのかという研究が、現在のメインのテーマの一つになっています。
タンパク質の機能に手を加えることができると、‛分子設計・合成後の調整’がうまくできます。どういうことかと言うと、タンパク質は生成されると特異的な立体構造をもってその機能を発現するんですが、そこにプラズマでうまく手を加えることで、構造が微妙に変化し、その結果として機能が変わります。それを、将来的には、今問題になってる筋萎縮性側索硬化症(ALS)とかアルツハイマー型認知症といったタンパク質に関わる病気の根本治療に使えるのではないかと考えています。うまくタンパク質の構造や機能を操作することができれば、凝集・分散といったタンパク質状態をコントロールすることが可能となり、タンパク質病の根本治療に使えるのではないかと考えています。
あとは、それ以外に、もともとステントを入れる対象である血管について、そのバイオロジー、つまり生理的な機能をどうやって維持しているのかというのを研究していますし、最近は、実物大の人工臓器を作ろうというのがあります。オルガノイド(試験管の中で幹細胞から作るミニチュアの臓器)は、今非常に盛り上がりをみせていますが、それを実際、実物大の人間に移植できるサイズで作ってやろう!というのが、うちの研究室で行っていることです。結構、漫画やアニメの世界の技術を実現する、ということをやっている感じです。

 

― 先生の研究で、漫画やアニメの空想の世界や技術を実現化していくことで、社会的貢献も含めて、社会を変えられるんじゃないかというところまでつながっていく、という考え方でしょうか。

そうですね。だって、面白いじゃないですか。今の時点だって、iPS細胞のように、自分の細胞を取ってきて、それを初期化して万能細胞にできるわけです。それを使って、例えば自分の遺伝子情報とか免疫情報とかを持った細胞が臓器になって、その臓器が実物大で、だめになった自分の臓器と交換することができれば、ドナーさんを待つ必要ないわけです。今、臓器移植待ちの患者さんに対して、ドナーさんの数は本当に少なくて1%とかその程度です。もう全然、対応できていない。だったら、それ作ろうって、人間も壊れてしまってだめになったところはもう交換しようって。その交換するための技術として、一つ提案できないかなというのを考えているところです。

 

― 先生の研究が進めば、事前に自分の臓器をストックするということも考えられますね。

それもいいと思いますよね。たぶん、脳以外であればできると思うんです。将来的には自分の臓器バンクみたいなものができるようになったほうがいいかなとも思います。

 

- キャリア形成で困ったことはこれまでありますか。

そうですね、困ったこと(苦笑)。僕が感じるこのアカデミックの世界って、やはりお弟子さん社会なんですよね。徒弟制度じゃないですけど、師匠がいて、お弟子さんがいて、脈々と受け継がれていく‛一門’みたいなのがあって。そこのコースに乗るか乗らないかっていうのが、結構キャリアに効いてくる。昇進とか、次のステップを踏む時に効いてきたりするので、それはすごい嫌でしたね。
僕は、博士課程での指導教員が定年退職して、別の先生に変わっていただいたりですとか、助教として所属した研究室も分野が全然違う研究室だったりと転々と研究室・研究分野を変えてきたので、あまり‛一門’っていう感じで所属してこなかった。だから、端で見ていて、例えば大型研究費の獲得でも、一つのグループで固めてしまって、何か代わり映えのしない人たちの中でずっとやっているという感じや、あそこのグループに入れないといろいろと難しい、といった感じがちょっと嫌だったというのはあります。
そのために困ったというか、つらい部分もあったわけですが、でも逆を言えば、そういう‛色に染まってない’というか、そういう‛一門’に入ってないから、農工大のテニュアトラック制度で評価してもらえたのかもしれないです。正直、今のところは、これがいいか悪いかは分からないですね(笑)。

 

― そんな先生が感じる農工大の問題点は。

委員会などの学内運営業務もすごく大事な仕事です。もちろん、それは分かっていますが、例えば学外向けのイベントを企画した際にその費用対効果がどのくらいあるのかという検証は絶対に必要です。他の先生方の貴重な研究時間を割いて、どのくらい効果があるのか、ちゃんとそこ検証しようよっていうのは、僕の中ではあります。特に広報関係は検証よりも過去の慣例を重視している傾向にあり、そんなに効果上がってるのかな?と疑問に思うことも多々あります。
また、一つのイベントでも農学部と工学部を同じ大学なのに別々に表に出したりしていて、やはり同時に連携して開催したほうがいいかなと思います。例えば、ホームページで、農学部オープンキャンパス、工学部オープンキャンパスって別々に書かれているのは、なんだか仲悪そうじゃないですか。何で一緒にやらないの?って思います。

 

― 逆に農工大の良いところは。

学長含め、副学長、理事たちのリーダーシップがすごく発揮できてるっていうのが、非常にいいところだなと思うのと、事務の方たちの協力体制が農工大はレベルが高いなと思っています。事務の人たちのサポートが手厚いっていうか、そこはすごいと思いますね。学生にはたぶん、見えないところだと思うんですが・・・

 

― 忙しい毎日を過ごす中でのオンとオフ、どう切り替えてますか。

    基本的にオフはないです。だから、もうずっと、オン、オンですね。趣味も研究みたいな。研究が趣味、ずっと研究のこと考えてますね。
出掛けていても、研究のこと考えてますし。装置関係が何かあったら、すぐに飛んでいかなきゃいけないですし。だから、オン、オフってあんまりないかな。ライフワークの一つっていうか、要は悟りを開くためには、世俗の欲を捨てて、研究に邁進しなきゃ悟りは開けないという感じです。(笑)

 

 

ー ご自身がこれからのOPERAでやりたいこと、夢や目標などはありますか。

  農工大にいる多くの先生たちと、共同研究して論文とか研究成果を出していきたいなと思っています。学科を問わず、いろいろな先生とやりとりをして、少しずつでも成果を出せればというのが、短期的な目線です。 今、もう既に、同じ学科内では、一緒にやっていて、ついこの間も論文がアクセプトになりました。今、三沢先生(OPERA事業 統括)とも一緒にやってますし、これから他の先生方ともどんどん一緒にやっていこうと進めています。いかに多くの研究成果を、農工大の先生たちと協力して、農工大の先生たちの力をお借りして出していけるかというところです。
先生方は、お忙しい中、皆さんフレンドリーといいますか、嫌な顔せずよく自分の話を聞いていただけます。一緒にやってみようとも言ってくれます。先生方の壁がないのが、すごくいいと思いますし、ゆえに、いろいろできるのではないかと感じています。

 

― 長期的な目標はいかがですか。

  農工大の世界的な知名度を上げてくための一つの力として貢献したい。農工大の吉野がこういう面白いことやってるよねと言ってもらえるような、認知されるような成果を出したいです。
何か大きな事業でも、ベンチャーなどの産業を起こすということでもいいんですが、産業界、世界に働きかけができるような成果を出していくというのが、長期的な目線ですね。
10年、15年ぐらいかかると思いますが、ぜひやりたいですね!

 

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<OPERA事務局より>

いつも明るく気さくな吉野先生。学生・先生・事務職員誰にでも裏表なく接してくださいます。OPERA内では研究に限らず、部門委員としても活躍いただき、いつも率直な意見やアイデアをくださるので運営面でもとても助けられています。そのお人柄から、研究・教育以外の業務も数多く担当されているようですが、大学として貴重な存在であることの現れだと思います。吉野先生らしさあふれる、素敵な話が伺えました。

次回は、農学研究院 准教授 岡田洋平先生のインタビューをお届けします。

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