【OPERA研究者インタビュー】研究を検査現場や病理医の助けにつなげて
OPERAに関わってくださる教員の中から、若手研究者の方々をクローズアップ。
今回は、農学部 共同獣医学科 准教授の村上智亮(ともあき)先生にお話を伺いました。
農工大に来られるまでの経歴を教えてください。
高校までは長崎にいました。そこから帯広畜産大学、北海道の大学に行って、そこから岐阜大学の、帯広畜産大学と岐阜大学で大学院が提携していたので、その大学院連合獣医学研究科、その後はもう、すぐ農工大に赴任しました。2013年からずっと農工大にいます。
子供の頃になりたかった職業はありましたか。
小さいころ、研究者になりたいというわけではなかったのですが、ただ、小動物の獣医さんになりたかったんです。大学に入るころには牛とか馬など大動物を診るような獣医さんになりたくて、帯広の大動物がいっぱいいるような大学に行きました。
特に家庭環境が獣医とかそういうことではなかったのですが、すごい田舎だったので(笑)、動物が多かったんですね。お隣のおじさんがチャボを飼っていたりとか、とにかく動物と触れ合う機会が多かったんです。それで、幼稚園ぐらいから夢は獣医だったので、きっと環境が大きかったんだろうなと思います。だから、進学先についても両親はすんなり受け入れてくれました。
基本は獣医になりたかったのですが、実はデザイナーもいいなと思った時期もあったんですよ。しかも、家具デザイナーです。
― 一時期家具デザイナーもいいなと考えられたのは、何かきっかけがあったんですか。
高校が進学校だったので、医者を目指すとかそういう人がいっぱいいたのですが、デザイン系とか美術系の進路を言い出しにくい環境でした。その反動が大学2年生ぐらいのときにグッときてしまいまして…。周りには、大学辞めて美大行くなんて言っていたんです。でも、当然周りには止められて、それじゃあ、ひとまず卒業まではちゃんと獣医を目指そうと考えなおしました。
― ‘研究者’という選択肢(進路)が先生の中で出てきたのはいつごろでしょうか。
研究室に入ってから考えるようになりました。帯広畜産大学の時に病理の研究室に所属していたのですが、指導教員の先生が退官間近でもう僕がほぼ最後の学生ぐらいの状況だったんです。そのためか、この先生が本当に驚くくらい自由にやらせてくれたんです。好きなことを好きなだけという感じで、悪く言うと放任的な(笑)。でも、その状況が研究計画立てから自立してでき、それが割と楽しかったんですね。僕は元々製薬企業に行くつもりだったんですけど、そんな風に楽しくやっていたら、その指導教官が君は大学院に行くといいって言ってくれて。自分にとっては、これまでの6年間にプラス4年って結構大きいハードルに感じたのですが、まだ、若いし、それまでの研究が楽しかったことから大学院に進学を決めました。その先生との出会いがが今につながっています。
現在の研究テーマについて教えてください。
研究室の名前は「毒性学」ですが、主な研究の土台は病理学です。病気のメカニズムを詰めていこうっていうのが主体的なテーマで、一番メインのターゲットはアミロイドーシスっていうタンパク質の病気です。
元々体の中にあるタンパク質が変性してアミロイドとして体に蓄積する病気なんですけども、元々の構造と違うクロスベータという少し特殊な構造をとるんです。この特殊な立体構造をとっているタンパク質って体の中でアミロイド以外にないんです。光学的にこの構造を特異的に認識できれば、標識せずにアミロイドを検出できるだろうという研究を行っています。ほかにはない構造を持ってるものだから、標識せずにどうにかして検出してみようというのがOPERAでの研究です。
最近、そのOPERAで三沢先生(本学OPERA事業の領域統括で、コアテクノロジーの課題代表教員)とラマンでの研究も始めていますが、もともとメインで使っているのは蛍光です。染色していない組織切片に光を当ててその蛍光波形を検出します。この検出するカメラが少し特殊、普通のCCDではなくてハイパースペクトルカメラという波長を読めるようなカメラを使っています。ここは赤外とかラマンなども一緒なんですが、この波長のパターンによってアミロイドに特異的な波形を見つけ、機械学習で、それをアミロイドとして認識する測定モデルを作りましょうという研究です。
三沢先生の持っているラマン顕微鏡は試料をそのまま観察できるんですけど、蛍光もやっぱりその下処理とかがいらなくて、ぱっと乗せてぱっと見られます。ラマンと蛍光の一番の違いは、蛍光ってものすごく強度が強いんですよ。ラマンっていうのは、例えばレーザーを当てて機械で波形を見るんですが、蛍光は人間の目で見えるんです。人間の目で見える波長を機械で正確に読んでいくんですね。実際に、今、研究室の学生に取り組んでもらってるのが、サルの脳のアミロイド。アルツハイマー病のアミロイドベータっていうのが蛍光顕微鏡で見えるんです。はっきりと違う色の蛍光が光ってるのが見えますので、その圧倒的な強度の違いは蛍光とラマンの違いといえますね。
― 先生の研究で変えたいことはどんなことですか。
臨床専門の獣医さんと違ってこちらは基礎研究なので直接的な貢献はなかなかできないかもしれませんが、特に病理切片については結構専門性が必要で、獣医学科とか医学部とかでちゃんと勉強した人が、なおかつ病理の専門的なルートで診断技術を習得していくんです。
例えば中に蓄積してるものだったり、あるいは腫瘍の種類だったりっていうのを光学的に機械モデルを作って認識することができれば、当然100パーセントの診断にはならないながらも、現状は非常に忙しい病理医さんが、こういう診断の可能性がありますっていう形でセカンドオピニオンができたり、病院が数をこなす役に立ったりする。例えば、全国にはたくさん食肉検査場があるんですが、そこには病理を主としている人がいるわけではないんですよ。そういうところはまず大学にこうやって持っていったりとか、あるいは頑張って自分で見るけどもなかなかその診断の正確性は担保できないってところがあって、そういったところで診断の補助などにそういう光学技術が使えていけばいいなと思っています。これによって低コストや時短に貢献できるなと考えています。
これまでのキャリア形成で困ったことはありましたか。
キャリア形成については結構自分では順調に来ているのかなとは思います。ただ現在の研究室が、僕が元々テニュアトラックの助教で赴任したと同時にできたような研究室だったんです。元々の下地のまったくない研究室を、その当時28才の自分にとっては、伝統的な研究室を助教から順を追って引き継いでいく方たちと比べると、最初の立ち上げはかなり苦労しました。予算的にも文字通り自転車操業で、毎年毎年その予算が切れたら終わりという感じでした。
また、研究室を一から立ち上げたことで自由にやれた部分はありますが、まだ論文も数報しか出してないようなときにPI(研究代表者)になったため、やっぱりその論文の書き方だったり、あとは予算の取り方だったり、特に共同研究先を探すことについて困ることも多かった。そこで、URAの方にはかなり相談に乗っていただきました。
そのような中で、継続的なOPERAでの共同研究は非常にありがたかったです。
- では、先生にとってOPERAに参加したことはどのようなものでしたか。
自分の共同研究獲得に‛火を付けたもの’という感じです。最初OPERAへの参加にお声かけいただいたときは、ほんとにただの病理要員で、共同研究のツテもなかった自分でしたから。
今までアミロイドをずっと研究していたんですけども、その光(科学)というところから目をつけたことがなかったんです。OPERAへの参加のおかげで共同研究獲得という面でも助けられましたし、光を使ってみようということから、また新たな知見なども出てきました。
最近、そのハイパースペクトルカメラがちょっとトレンドで、ハイパースペクトルカメラを病理に役立てようというベンチャーも出てきていています。こういったところに少なくとも獣医病理でやってる人たちはいないので、そういった新しい側面から獣医病理を盛り上げていけたらいいなと思っています。
お忙しい毎日を過ごす中でのオンとオフ、先生はどう切り替えていますか。
住まいを大学近くに購入したこともあり、オンとオフの境目があまりないです(笑)。ただ、研究室にいる時間をきちんと自分で決めています。それで、境目を作っているという感じです。でも、研究室にいる間も、学生たちと楽しくやっている分、ずっとオンという訳でもないかもしれません(笑)
また、あまり行けていないのですが、学生時代の指導教員の影響もあって、昔からの趣味は山登りや釣りなどのアウトドアですね。釣りの時などは研究室の学生が一緒にきてくれたりしますよ。
先生が感じる農工大の魅力って何ですか?
僕は、やっぱり研究のコラボレーションがすごくやりやすいなと思っています。自分が、研究内容的に工学部の特定の学科の先生と多少近いこともありますが、工学部の先生の方から依頼を受けることがあります。
あとは今、産業技術研究センターとか他の大学などとの共同研究をいろいろやっていますが、地理的にも首都圏で割と西東京に寄ってるのですごくやりやすいと思います。
これからの夢は?
今、研究室がすごくうまくいってると感じています、去年初めての大学院生が入りました。博士課程の学生が2名、修士で国際イノベーションのコースで来てる学生が1人。さらに、学部生も4人います。新たな4年生の配属も決まりました。農工大は共同獣医学で岩手大と連携してるのですが、岩手大からも来年また1人来てくれる予定です。
ですから、この研究室を維持していくこと、これが今の夢と言えるかもしれませんね。
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<OPERA事務局より>
インタビュー場所の村上研究室は先生も学生さんもみな同じ空間でそれぞれ自由に研究されているアットホームな雰囲気でした。
コースタルパイソンの麻呂くんとのツーショットにも表れている深い動物愛で農工大に飛び込み、ご自身の城をじっくり築きながら研究を楽しまれていることがわかる和やかなインタビューでした。
次回は、グローバルイノベーション研究院テニュアトラック推進機構 宮本潤基准教授(テニュアトラック)のインタビューをお届けします。</