【OPERA研究者インタビュー】工学研究・専門分野の使命を胸に、果てはノーベル賞という夢につなげる研究者
OPERAに関わってくださる教員の中から、若手研究者をクローズアップ。
今回はグローバルイノベーション研究院テニュアトラック推進機構で准教授(テニュアトラック)として活躍する 津川 裕司(ひろし)先生にお話を伺いました。
― 農工大に来られるまでの経歴を教えてください。
大学院修了まで大阪にいました。生まれも育ちも大阪、大学も大阪大学です。
製薬メーカーへ研究者として就職したい気持ちがありましたが、その最終面接で面接官から「君はアカデミアに向いているからアカデミアに行った方がよい」と諭され、また、元々学生時代からお誘いを受けていたということもあり、横浜にある理化学研究所で2012年から研究員になりました。その後、2021年度から農工大にお世話になっています。
― 子供の頃になりたかった職業はありますか?
学校の先生になりたかったですね。
小学生の時は小学校の先生、中学生の時は中学校の先生・・・とその時々で先生にあこがれていました。でも自分の年齢が上がるにつれて、先生になるのであればもう少し高いレベルのことを教えたいなと考えるようになってきました。
― もともと学校の先生になりたい思われたところから津川先生の進路はどう変わっていったのですか。
先生になりたかった理由は、両親が人に教える職業をしていたということも多少影響したかもしれませんね。また、バスケットをしていたのですが、小学5,6年生の担任の先生がバスケットの顧問ということもありその先生に特にあこがれていました。大学では、教職科目も履修し、学部生までは高校の教師になってバスケットを教えたいと思っていたりもしました。大学まで体育会でバスケットをやって、修士や博士課程の時は指導もしたりしていたこともあり、バスケットで生きてきたというところもありましたね。ただ、大学に進学した時点でせっかくだから博士課程までは行こうと思っていました。もし、企業に就職するなら研究職がいいなとは思っていたのですが、ここでなら働きたいと思う企業に絞って就職活動しました。ただ、それが思うようにいかなかった時、もう一生企業には行かない!とアカデミアに進路を振り切りました。
― 現在の研究内容について教えてください。
我々の体に流れている、作っている成分を見つけに行くということを突き詰めています。専門的にいうと、メタボローム代謝性物質を計測したり、その応用として、例えば「食品分野」でいうとなぜこの食品はおいしい、まずいがあるのか、そのおいしく感じる成分を計測・観察したり、「診断」の分野で言えば、血液検査で成分を見て将来かかるであろう病気を予測できたり、そういうものに応用できる技術をつくっています。自分は工学部系の学部で学びましたが、工学分野はこの世の中で使える道具を作ることを使命の1つにしている学問だと感じています。それを応用して薬学なら創薬分野で使うなど、理学・医学と別の研究分野につなげることができるものだと思っています。化学分野で言えばガソリンとか、含まれるガソリンの化合物を観ることで成分の良し悪しを見分けて純度を調べたり、培養燃料などであれば生物を使って生産効率を上げるのにどの合成ステップがうまくいっていないのかが、我々の技術で捉えることができると思います。自分の道具を別の研究分野にもつながって広げていきたいと思っています。
- キャリア形成で困ったことはこれまでありますか。
キャリア形成や人生の分かれ道は、誰でも2~3回あるのではないでしょうか。結局は自分の人生、自分で選んだ道は正しいと思って進むべきかなと思っています。私も2回キャリア形成では大きな決断をしました。2015年頃、当時理化学研究所にいたのですが、大学の講師としてチャレンジしないかというお誘いもありましたが、その時は「まだ研究者でいたい」という気持ちから、理化学研究所で研究を続ける決断をしました。また、理化学研究所から農工大へ出る決断をした時は、独立したいという自分の気持ちを大事にしました。どちらが正解かはわかりませんが、これからも自分が選んだ方が正しいと思って、道を選ぶことになると思います。
― これからの夢や目標はありますか。
長期的な夢は・・・やはりノーベル賞が取りたいです!それを夢に思いながら研究をしています。
短期的な夢というか具体的な目標は、三大誌と呼ばれる学術誌CNS(Cell, Nature, Science)に自分の論文を沢山通すことです。
研究としての目標は自分の技術で新たなサイエンスの自分の研究で切り開けたらそれが楽しいしうれしいですね。今までもそういう経験をしてきていますが、未知だったことを明らかにするという成功体験を積み上げたい、といったことでしょうか。
― オンとオフ、どう切り替えていますか。
家に帰ると強制オフかもしれません。子供と一緒にいるときも自分に届いているメールの返信が気になったりもしますが・・・(苦笑)
明確にオンオフの切り替えはないと思いますが、そういう子供と一緒に過ごせる時間があることで一瞬、切り替えさせてもらえているのかもしれません。
― 津川先生が感じられる農工大の良いところや問題と思うところは。
研究する場所として農工大はよいところだと感じています。加えてよい先生方も多いと感じています。研究で困ったことがあっても農工大の先生に伺えば概ね問題が解決できるように感じます。テニュアトラックという制度があること、そういう先生に対する事務の方々のサポートが充実しているなと感じます。
問題かなと思うのは、学生さんが真面目すぎるところでしょうか。自主的に、能動的に何かをやっていこうと動く学生さんが確率的に少ないと感じます。言われたことはきちんとやるのですが、僕に意見をしてくれるような学生さんが少ない気がします。それも個性だとは思うのですが、大学のカリキュラムとして能動的発信力を高めるトレーニングや教育をしていかなければと思っています。もともと素質がある学生さんが多くいるので、能力を高めてあげられればと思いますし、その先の大学院教育につなげていく必要性を感じています。
― 大学や研究所にいらっしゃった先生が今、思うところはありますか。
研究環境だけを考えれば理研が一番整っているとは思います。もし、学生が研究者として生きていくと決めて、その道を突き詰めたいというのなら一度は行った方がいいとアドバイスします。経験上、自由な発想が具現化できるところだとは思いますね。
また、物理化学的に計測し、そこから出てきたデータを解析するインフォマティクスという呼ばれる研究が自身の専門分野になるのですが、その自分の研究が専門技術すぎて、できる人材が理研でも私一人しかいませんでした。海外と違って、この分野では日本で教育体制がなく、それをできる環境もほとんどないため、このままではいつまでたっても日本でできる人材が育たずいつか海外に負けてしまうと感じていました。実はこういったことも自分が大学に来た理由の一つです。教育機関で、自分の研究思想やスキルをもっと伝えて、この分野の人材を増やさないといけないと。将来投資として人材を育てることができる楽しみがある、それが大学ならではだと思っています。
― 今後OPERAでやりたいことは何ですか。
先日開催されたラマン顕微鏡研修会にも参加させていただきました。OPERAの中心にあるラマン顕微鏡技術にラマン顕微鏡がターゲットとすべき分子を自分が見つけて、その分子がラマン顕微鏡の得意とする分子だったらという想いがあって、何か自分の研究内容が提供できないかなと考えています。また、研究のコミュニティーというか産学連携の場としてのOPERAをもっと深く知りたいと思っています。
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<OPERA事務局より>
インタビューでは生粋の大阪人、関西弁で話される先生をちらりと見せてくださいました。自分の研究を学生さんに伝えたいという想いで農工大に来てくださった津川先生。教育・研究のプレイヤーとして、先生のシュートがノーベル賞というゴールに決まるまで、農工大で華麗なプレイを見せてくださることでしょう。
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【お知らせ】
インタビューにご協力いただいた先生方、ご覧いただいた皆様、
誠にありがとうございました。
今回で第1クールは終了、続く第2クールを予定しております。
次回公開をお待ちください。